ドイツビールよ、どこへ行く 

ドイツビールと言えば、麦芽100%の本格派ビールを想像する人が多いでしょう。ドイツでは、「ビールには麦芽とホップ、酵母、水しか使ってはならない」とするビール純粋令なる500年余前にできた法律を今でも守りながらビールが造られてます。だからこそ、米だのコーンスターチだのが入ったどこかの国のビールよりもおいしい、と私は思っています。しかし最近、本格派ビール王国には似つかわしくないビールが市場に出回り始めているのです。

 先陣を切ったのが、日本でもよく知られるベックス。すっきりした飲み口をうたい文句にライム果汁入りのビールを発売すると、若者を中心に人気を呼びました。すると、ビットブルガーやクロムバッハーといった大手各社は、フルーツジュースやコーラとミックスしたカクテル風ビールなどを売り出してこれに追随。麦芽たっぷりのモルティーなビール大好きな私としては、思わず「うぇ〜、マズそう」と言ってしまいたくなります。

 「健康食品もどき」に仕立て上げられたビールも出てきています。世界最古のビール醸造所として知られるバイエルン州フライジングのヴァイエンシュテファンは、ホップに含まれる抗酸化物質がガンや心臓発作、心筋梗塞、アルツハイマー病などの予防に効果があるとされている点に着目。この抗酸化物質を濃縮する技術を開発し、普通のビールよりも抗酸化物質を多く含んだ新製品を発売しました。

また、大手の一角であるカールスバーグは、健康に良いとされる各種ビタミンやビオチン、レシチン、葉酸などを混ぜたアルコール度数1%というビールを、何と薬局を中心に売り出すのだそうです。ジュースなのかビールなのか分からないようなシロものよりはましかもしれませんが、これらのヘルシービールに麦芽100%の本格派ビールの面影はありません。

karla

カールスバーグの”薬局ビール”「KARLA」

 ジュースビールやヘルシービールの登場は、健康志向を背景にビール離れが進む若者や女性を取り込もうとするドイツビール業界のれっきとした新しいビジネストレンド。でも、私にはやっぱりどうしても軽薄に見えてしまう。質の良い原料をごまかしなく正しく使って造るドイツビールの良き伝統がこうして徐々に失われていってしまうとすれば、何とも悲しいことです。

過ぎ行く夏を惜しんで乾杯! 

 ミュンヘンに住んでいてこれに行かない訳にはいかない!ということで、世界最大のビールの祭典オクトーバーフェストが、先週17日から約2週間の日程で始まりました。私は2003年秋からここに住んでいますが、実はオクトーバーフェストを見るのはこれが初めて。03年は病気療養で渡航が遅れて見ることができず、「今年こそは」と楽しみにしていた昨年は、8月末にはニューヨークに行っていなければならなかったのでダメ。今年は文字通り3度目の正直で、ようやく実体験できたのでした。

 オクトーバーフェストはバイエルン王家の皇太子の結婚を祝ったお祭りが起源で、今年で何と172回目。お祭りそのものは10月に行われていましたが、10月のミュンヘンは屋外でビールを飲むにはあまりに寒すぎるという現実的な理由で、現在は10月の第一日曜日からさかのぼって2週間前の土曜日から始まります。ハイライトは最初の2日間。フェスト会場にミュンヘン市内6大銘柄のビール樽が馬車に引かれて運び込まれ、ミュンヘン市長が最初の樽を開栓して開会を宣言する初日。そして、翌日はミュンヘンや近隣の集落、海外からのゲストが色とりどりの民族衣装に身を包んで市内を練り歩く大パレード。その後は、ただひたすら飲み、歌い、遊びます。

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 フェスト会場では、この時期にしか飲めない「フェストビア」を飲むことができます。でもこのフェストビア、通常のビールよりも原料のホップやモルトが少なくてアルコール度数が高い(約6%)だけなので、普段おいしいビールを飲んでいるミュンヘンの人たちにとっては、お世辞にも旨いビールではありません。そんなこともあってか、真にビールを愛する地元民は、オクトーバーフェスト期間中も会場には行かずになじみの店でゆっくり飲むか、今日の私たちのように平日15時までの割引サービスを狙って訪れるようです。オクトーバーフェストは、ビール好きの地元の人々のためのお祭りというよりは、日頃あまりおいしいビールを飲むことができない国々からの観光客、そして彼らを当て込んだ地元ビジネスのためのお祭りと言ったほうが正しそうです。

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ミュンヘン市内の銘柄の中で最もおすすめできるアウグスティナーのフェストビア。オクトーバーフェストでのビールはすべて1リットル単位。日本人女性で1杯飲めたら立派です!

 昨年のオクトーバーフェストには、世界各地からの観光客を含めて約590万人が来場し、550万リットルものビールが飲まれたそうです。

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 これだけ多くの人が集まるお祭りというだけあって、期間中に会場ではミュンヘン市内の1260世帯の年間電力に相当する電力と、同市内の一日の使用量の3分の1に当たる水が使われるのだとか。とにかく何もかもがケタ違い。オクトーバーフェストが世界最大のビールの祭典であるだけでなく、市民によるお祭りとしても世界最大というのも頷けますね。 

 日本で9月と言えばまだまだ残暑厳しき頃。でも、こちらではオクトーバーフェストの始まりとともに秋風が吹いてきます。これで夏も終わりかと思うと、ビールの味もちょっぴりほろ苦く感じられます。

ワールドカップで「ビールが飲めない」? 

 梅雨時の湿気にも負けず日本じゅうが熱狂した2002年のサッカー・ワールドカップ日韓大会からもう2年。そして、次の06年ドイツ大会開幕まで、今日6月9日でちょうどあと2年となりました。その開会式と開幕戦は2年後の今日、ここミュンヘンで行われます。街全体の盛り上がりはまだまだですが、新スタジアムの建設や地下鉄の路線工事が着々と進んでいるのを見ると、ビッグイベントが確実に近づきつつあるなと感じます。

 ミュンヘンと言えば、ドイツ国内リーグ・ブンデスリーガの名門チーム「バイエルン・ミュンヘン」と、残念ながら今年は振るわず来季の2部リーグ落ちが決まったものの地元チームとして愛される「1860ミュンヘン」の本拠地がある“サッカーの街”。そして、ミュンヘンと言って忘れてはならないのはそう、昔ながらの製法を今も守り続けて、おいしさでも世界的に知られるビールです。バイエルン・ミュンヘンの試合がある日は、ユニフォームを着たサポーターたちが地元銘柄のビールが出されるビアガーデンの席を埋め尽し、一部のサポーターは一杯引っかけた後にスタジアムに乗り込んでほろ酔い気分で応援する。この街では、サッカーとビールは切っても切れないんですね。
   
 なのに、W杯ではスタジアムで“ビールが飲めない”のです。少なくともビールを愛するミュンヘンっ子とビールの味の分かる世界中の人々にとってはそう。その心は…。

 「バドワイザー」ブランドを有するビールメーカー、アンハイザー・ブッシュがこのほどW杯のオフィシャルスポンサーに決まり、スタジアム内ではスポンサーの競合商品を販売できないので、せっかくW杯の試合がミュンヘンで開催されるのに地元銘柄が飲めない、というのが話のオチです。でも、「な〜んだ」と思うことなかれ。こちらでは、ビール業界関係者が「(アンハイザーの独占は)ビール検閲だ!」と怒り、メディアが「ビール王国でビールが飲めない」と皮肉るなど、けっこう大騒ぎになったのです。ドイツ大会観戦を計画している皆さんには、スタジアムでの1杯はほどほどにして、街中にあるビアガーデンでミュンヘンでしか飲めない銘柄を楽しむことを心からお勧めします。

後日談:ドイツの大手ビール会社でドイツナショナルチームのオフィシャルスポンサーでもあるビッドブルガーは、バドワイザーの「Bud」が自社銘柄の愛称「Bit」に似ていて紛らわしいなどとして、アンハイザーによるドイツ国内でのバドワイザーのPR差し止めを求めていました。結局、ビッドブルガーがこの訴訟を引っ込める代わりに、バドワイザーとともにスタジアム内での販売が認められることに。ドイツ大会でドイツビールが飲めないという最悪の事態は避けられることになりました。